朋誠堂「美人画シリーズ」
●新版画 「おんな十二姿」       
●江戸伝承大錦手摺木版画 「秘蔵 浮世絵美人画撰」      >新着!
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新版画 「おんな十二姿」

瞳   小早川清(額入り)
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牡丹雪が舞う中を行きかけた女性がふと振りかえる。画題に〝瞳〟とあるのが、成程と思われる一重瞼の眼に、ぞくとする魅力を秘めた女性だといえる。無造作に束ねた髪にきれいな飾りのついた櫛をちょこんと差し、白のちじみのショールで頤まで隠した姿が、この女性の妖しいまでの美しさをより印象深いものとしている。茶地の羽織のしぼり模様は、昭和五年(一九三〇)ごろ流行した文様だという。  筆者小早川清(一八八九-一九四八)は、福岡市に生まれ、鏑木清方(一八七八-一九七二)に師事した。そして大正一三年(一九二四)第五回帝展に初入選し、以来、毎年のように入選したが、昭和八年(一九三三)第一四回の帝展へ「旗亭涼宵」を出品して特選となった。彼の代表作としては、「長崎のお菊さん」「蘭館婦女の図」「春琴」「行く春」などの作品が挙げられている。そして版画は、昭和五・六年(一九三〇・三一)の「近代時世粧」シリーズでは、なかでもほろ酔・爪・化粧・黒髪・口紅・そして本図などが知られ、また艶姿・湯上がり・舞踊なども佳作とされる。小早川氏は戦後にも数点発表されているが、やはり昭和初期のころの作に人気が集まる傾向がみられる。また画家、彫師、摺師の協力によって生まれる新版画の流れを発展させた一人として注目を集めている。本図など、清氏の画技の優秀さを示す作品であるといえる。
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作品サイズ 44.5x27㎝
価格 75,600円(税込)
 

  遺珠刊行会「名品おんな十二姿」

舞   木谷千種(額入り)
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髪にかけた水色の布の端を軽くくわえ、大柄な格子縞の浅黄色の小袖に黒い帯といういでたちは、いわゆるなさぬ恋に悩む風情といえるものである。そして眉を落とした跡も青々としている御内儀姿であるため、いっそう情感豊かな絵となっている。  筆者木谷千種は、明治二三年(一八九〇)大阪に生まれ、歴史的美人画を得意とした北野恒富(一八八〇-一九四七)歴史人物画に優れた野田九浦(一八七九-一九七一)などに学び、美人画を得意としたという。文展、帝展にも入選するなど女流の中堅として活躍する一方、近松研究家の木谷蓬吟に嫁し、また千種会を設立して後進の指導につくしたが、昭和二二年五八歳で没した。  本図でもかんじられるように、女性独特の繊細な神経を配り、描線をきわめて少なく、淡い色彩の配合によって、浮世絵師鈴木春信(一七二五-七〇)を思わせるロマンチックな美人像を画いている。その千種女史の工夫を活かした描線に抑揚をつけた彫師の刀の冴は、木版画の線にありがちな強さを感じさせない技が示され、また優れた手腕をもつ摺師の淡い色調の摺りによって十二分の効果を挙げているといえる。専門家である摺師の方の話では、一見単純そうに見える色彩を淡い色からだんだんと濃い色を摺り重ねていって、この調子をととのえるのだという。いわゆる浮世絵方式が効果を示した作品といえる。
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作品サイズ 40x27㎝
価格 75,600円(税込)
 

  遺珠刊行会「名品おんな十二姿」

菖蒲   近藤紫雲(額入り)
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見事に咲いた花菖蒲をバックに物思いにふける丸髷の女性のものうげな表情は、彼女が若いだけに哀愁さえ感じさせる風情である。  本図は、今回の企画に集録した島成園女史の「湯上り」と同じ「新浮世絵美人合」の一図であって、六月に割り当てられている。  バックの菖蒲、目鼻立ち、腕の描線は、浮世絵調の彫りであるが、丸まげ、着衣の版の造りは、一工夫した肉筆画を木版が複製する際に用いる版の造りになると専門家である彫師の話があり、また摺りの専門家の話では、剃毛、雑巾などを活用したボカシをはじめ独特の摺りのテクニックを工夫して回数を重ねてこの作品の味を出すのだということである。  女性の顔立ちが、一見鏑木清方画伯(一八七八-一九七二)の描く美人に近いように思われ、その線からの調査したが、筆者近藤紫雲の経歴について知ることはできなかった。もし御存知の方がありましたら御教えを請う次第です。
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作品サイズ 40x27㎝
価格 75,600円(税込)
 

  遺珠刊行会「名品おんな十二姿」

木立の女   橋口五葉(額入り)
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五葉は明治三十三年、東京美術学校西洋画科に特待生として入学し、首席となり秀逸な画学生として斬界に知られた。橋本雅邦に学び、同郷の黒田清輝に認められ、同門には辻永、和田三造、青木繁など錚々たる人材がおり、兄嫁は美術学校長上の直昭の妹といった環境にもかかわらず、油絵界には進出することなく、「ホトトギス」の挿絵を描き、一方では夏目漱石の「吾輩は猫である」の装幀をもって一躍五葉の名は世界に轟いた。そして漱石、鷗外、荷風、四迷、潤一郎、一葉、抱月といった文学界の大家たちの書籍や各種雑誌の装幀、挿絵描きとなったのである。後に浮世絵版画に接近するようになり、浮世絵の史的研究、木版技術の研究を深め、著作も少なくない。そして大正四年ん十月「浴後裸女」を出したのをきっかけに版画制作に一途の道を歩み出した。  本図はおそらくこれ以前の作で木版画挿絵として創作されたと思われる。大正四年以後のいわゆる五葉版画は十三点あるが挿絵や装幀を中心に活躍していた時代の作である。前述の如く友人青木繁の感化からイギリスのラファエル前派の神秘的抒情性や文学性豊かな作風を持っており、油絵を学んだ事が木版画の中にも新ロマン派の傾向と写実性の上に浮世絵の現代化を成し遂げた作家といえる。
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作品サイズ 40x27㎝
価格 75,600円(税込)
 

  遺珠刊行会「名品おんな十二姿」

東京驛   山川秀峰(額入り)
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この図は、鉄道開通七十周年記念のため、渡辺木版画舗の注文で、伊東深水(一八九八-一九七二 )が新橋駅を、山川秀峰(一八九八-一九四四)が本図東京駅を担当した作品だという。 題材となった東京駅は、明治四一年(一九〇四)に着手され、大正三年(一九一四)に完成したという。しかし第二次大戦の際戦災に合い、上部の塔の部分が失われている。昔の姿を知る者にとっては非常になつかしい思いがするであろう。そして造花であろう髪飾りをつけたヘア・スタイルに茶地の着物に黄、茶、灰色三色の大胆な模様の羽織、そして明るい水色の帯と赤の帯揚げ、グリーンの帯締めなどの配色が、この女性の若さを表現しているといえる。 筆者山川秀峰(一八九八-一九四四)は、京都に生まれ、本名を嘉雄といい、鏑木清方(一八七八-一九七二)池上秀畝に師事した。美人画を得意として、独特の画風で一家をなした。帝展では昭和三年(一九一四)第九回帝展に「阿倍野」を出品して、特選をとり、また昭和五年(一九一四)の第十一回帝展に「大谷武子姫」を出品して、またまた特選となった。そして伊東深水(一八九八-一九七二)と共に青衿会を催して美人画の向上をはかり、「序の舞」「信濃路の女」などの名作をのこした。また版画では「さらし女」「羽根の禿」「舞踊大原女」「赤い襟」などの代表作をのこしている。
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作品サイズ 40x27㎝
価格 75,600円(税込)
 
  遺珠刊行会「名品おんな十二姿」

長襦袢   名取春仙(額入り)
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見事に結いあがった島田髷を手直しする眼の大きな娘のあどけなさが印象的な作品である。そしてふっくらとした白い腕ときゅうと締めた伊達巻で盛り上がった胸やかすかに立膝した膝などの描写によって若い女性独特の魅力があふれているといえよう。そしてしぼりであろう長襦袢の紫の部分、肌襦袢の朱色が色彩面にも優れた画面効果をかもしだしている。 筆者名取春仙(一八八六-一九六〇)は、東京に生まれて、本名は芳之助といい、号を春仙、春川といった。国民新聞などに挿絵を画いていた日本画家久保田米遷(一八五二-一九〇六)その息子金遷に師事した。平福百穂(一八七七-一九三三)にも学んだという。東京美術学校で日本画専科に学んで院展にも出品したこともあるが、やがて中退したという。そして本画から遠ざかったために、夏目漱石の小説の挿絵でジャーナリズムにみとめられ、藤村、草平、鏡花、花袋など明治の文豪の挿絵を描いた。牙声会、院展にも出品したが、大正五年(一九一六)渡辺木版画舗から「鴈治郎の紙屋治兵衛」六年「梅幸のお富」を出し、のち「春仙似顔絵集」にまとめられたという。山村耕花とはちがった繊細な美しさがその特色となっている。そして大正十五年(一九二六)に創刊した『大衆文芸』にも常連の挿絵画家として名をつらねたが、晩年画壇から忘れられ、自殺して世を去った。
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作品サイズ 40x27㎝
価格 75,600円(税込)
 
  遺珠刊行会「名品おんな十二姿」

舞妓   山村耕花(額入り)
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「唐人まげ」「しのぶあげ」かははっきりしないが、いわゆる京都の舞子独特の髪型に、大がらの花模様の黒地の着物金の大胆な模様が効果的な朱の帯とが見事な配色美をなしている。そしてバックに用いた歌麿の美人大首絵などに見られる白雲母摺りがさらにその効果を高めている。黒髪の摺りは、摺師の手腕のみせ処だといえ、おそらく数十回の複雑な摺りのテクニックを行うことによって実現されるそうである。 筆者山村耕花(一八八六-一九四二)は、東京品川に生まれる。名を豊成といい、号を耕花という。はじめ屋形月耕(一八五九-一九二〇)に学び、のち東京美術学校に入学し、明治四〇年(一九〇七)日本画専科を卒業し、その年、第一回文展に「茶比」を出品して入選した。そして明治四三年(一九一〇)第四回展に、「大宮人」を出品して褒状となった。やがて大正五年(一九一六)三〇歳で日本美術院の同人に推薦され、同人の中でも異色ある作家として注目された。彼は、浮世絵、大津絵などにも興味を持ち、また演劇、その舞台装置に深い興味を示し、渡辺木版画舗から新版画として出した役者絵が評判となり、「梨園の華」シリーズ十二枚揃が代表作といえる。このほか、風景などに優れた作がある。
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作品サイズ 40x27㎝
価格 75,600円(税込)
 
  遺珠刊行会「名品おんな十二姿」

女優   山中古洞(額入り)
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割り忍」或いは「お福」という近代的なヘアスタイルのこの女性は、大正期(一九一二-二六)を通じて人気のあった映画女優酒井よね子をモデルとしたものであるという。浮世絵の美人画では、よく当時の評判女優を画題とした作があるが、描かれた女性はあくまでも絵師の理想とする女性像として制作されるのが普通であった。それに対して本図は写実的にモデルの特徴をとらえ、しかも人気者である点を考慮した作風は、浮世絵の作とは異なる斬新さが存在するという。女優をモデルとした木版画はきわめて珍しいといわれる。 筆者山中古洞(一八六九-?)は、東京麹町に生まれ、本性名を佐藤升といい、中山家の養子となった。月岡芳年(一八三九-九二)在原古玩(一八二九-一九二二)熊谷直彦(一八二六-一九一三)内国勧業博覧会に「清正進軍の図」を出品して褒状を受けている。そして鏑木清方(一八七八ー一九七二)などと研究グループ鳥合会を結成し、明治四〇年(一九〇七)青年作家の連合団体、国画玉成会の結成に際しては、清方と共に鳥合会を代表して参加している。晩年には世の注目を集める業績を示さなかったため、その歿年は不詳となっている。 鷺
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作品サイズ 40x27㎝
価格 75,600円(税込)
 
  遺珠刊行会「名品おんな十二姿」

●遺珠刊行会「名品おんな十二姿」について
推薦のことば    日本芸術院 高橋誠一郎
「名品おんな十二姿」の出版が今日の美術界に良い刺激を与え新しい創作活動が興ることを期待しています  浮世絵は、江戸時代に華をひらいた世界的な芸術です。寛政期の喜多川歌麿、葛飾北斎等の出現により最盛期を迎え、多くの名絵師を生み出しましたが、幕末から衰退の一路をたどり、明治時代には西洋画に制圧され、息を潜めてしまいました。
 しかし大正半ば頃から、この世界稀有の浮世絵木版画美術を見直す動きが出て、橋口五葉、伊東深水、石井柏亭などの画家たちが、彫師、摺師の有志と手を組み、新版画運動を興しました。
 偖て、此の度版画界に在って、最も若く、最も充実した木版画制作活動を展開している遺珠刊行会が「名品おんな十二姿」と銘打って、大正、昭和初期の十二人の画家による名作版画を覆刻出版するといいます。
 いずれもこの新版画運動の流れの中で創作された名品であります。  小早川清、木谷千種、島成園、近藤紫雲、池田輝方、橋口五葉、山川秀峰、名取春仙、山村耕花、山中古洞、北野恒富、石井柏亭、どの画家も才能に恵まれ精進の輝きの見られるすぐれた芸術家たちであります。
 しかも、選ばれた作品は版画芸術の粋を十二分に具現した秀作で、モチーフの「おんな」の様々なシチュエーションの詩情が色濃く表現され、まことに味あい深いものがあります。この昭和初期の十二人の作家による木版画出版が、今日の美術界に良い刺激を与え、新しい創作活動が興ることをこの機会に、わたしは心から期待いたします。そして練達せる彫摺技能による「名品おんな十二姿」の成功をいのるものであります。
<おんな十二姿>
推薦:高橋誠一郎   監修:楢崎宗重   解説:山口桂三郎   解説:菊地貞夫  
制作:【彫師】前田謙太郎、伊藤進、久我伝吉、小池茂【摺師】梶川芳雄、内川又四郎、梶川弥太郎、渡辺義明  
版木:福島県産桜材版木使用   用紙:越前生漉奉書・漉元透かし入り  
発行:遺珠刊行会  

推薦:高橋誠一郎   監修:楢崎宗重   解説:山口桂三郎   解説:菊地貞夫  
制作:【彫師】前田謙太郎、伊藤進、久我伝吉、小池茂【摺師】梶川芳雄、内川又四郎、梶川弥太郎、渡辺義明   
版木:福島県産桜材版木使用   用紙:越前生漉奉書・漉元透かし入り  
発行:遺珠刊行会  



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江戸伝承大錦手摺木版画 「秘蔵 浮世絵美人画撰」

歌麿    風流七小町 鸚鵡(額入り)
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日本を代表する美人とされるのに、平安時代の歌人小野小町がいる。その小町の七つの逸話に因んで、〝七小町〟という。鸚鵡小町はその一つで、年老いた小町が大内へ参上した時、女房たちが彼女のあまり変りように、歌を詠んで、その返歌で小町であるか、どうかを試そうということになった。そこで和歌を送った処、小町は鸚鵡返しに和歌を返したという逸話から鸚鵡小町がつけられた。  本図は、この鸚鵡小町になぞらえた作画であるが、小娘に、細紐でびんをあげた年増が何事か非難されている構図は、先の逸話のどの部分を現代化したのか、はっきりしない。歌麿描く女性たちは、盛期の豊満な顔立ちに比べて細面となり、またびんに比べてまげが大きく結髪されたヘアスタイルとなっており、享和年間(1801-04)の作画であることを知る。しかし年増の立膝した足の曲線美や胸の前で交互した両腕の描写の見事さは、盛期の歌麿の優秀さをなお留めているといえよう。  UTAMRO Parrot, one of ‘Seven Elegance Parodies of Kamachi’ Here we see woman with slenderer faced and larger coiffures than those of his most productive period. This print was produced during the Kyowa Wra(1801-1804). The expression of a seated middle-aged woman is excellent in the way it brings out the beauty of the curved line of her legs and of the lines of her arms which are crossed in front of her chest, showing his technique to be still as strong as it was during his most productive period. This piece was a product of Utamaro's late period. It is one of a series of seven prints that parody incidents in the life of the famors pocetess Komachi.
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彫・伊藤進      摺・渡辺義明
作品サイズ 36.3x24.6㎝
価格 39,960円(税込)
 

  遺珠刊行会「秘蔵 浮世絵美人画撰」
豊国    えり洗い(額入り)
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半裸の肌もあらわに、盥を前にした美人が、手拭でえりを拭い、髪油やえり白粉を洗い流すなやましいポーズは、写実意識を増した後期浮世絵美人画の好画材であったらしく、多くの浮世絵師が手がけている。浴場でなく座敷でのえり洗い図は、玉川船調あたりが早い所であろうか。ただ舟調の図では、えり洗いという動作の描写が主眼で、少しく説明的な感じが揺洩していた。これが、この豊国の図になると、体のくねらせ方、衣紋の乱れなどに、ぐっと色っぽさを増し、美人の肉体の実在感も前面に押し出されて来る。切れ長でやや吊り上がり気味の目付きは、文化中期の、張りと婀娜とを兼ね備えた江戸前美人を象徴する。繊細な彫師の技は睫毛まで彫り分け、いやが上に真実感を強調している。文化年間、生活感情を表現するリアルな様式に変化した豊国が、その様式の長所を十分に発揮した作品ともいえよう。そしてこの嬌艶美を発散するポーズが、後代頻出するえち洗い図の手本とされている点はとくに注目されるところである。愛弟子の国貞の五渡亭時代の作「縁結び女夫評判 こたつの火性」、同人が三世豊国になってからの「江戸名所百人美女 御殿山」、溪斎英泉の「五十三次 大磯駅」など、いずれもこの初代豊国作品の構図の模倣が脱化と見られるものである。  当図の余白に併刻した改印(検閲許可印)に、極字印の他に「津弎」とよめる副印があり、これは小伝馬町三丁目住の行事津村屋三郎兵衛」の印である。上述の両印を用いた時期は文化九年頃と見られ、この絵の制作年代がほぼ推定される。本図がシリーズの中の一作か、単行作かはまだ調べ得ていないが、植物を図案風に添えた様式から見てシリーズもののように思われる。現に版元は違うが、同絵師の作で別の行事副印を持ち、美人に植物を図案風に添えた同時期頃の図を見ているから、あるいは、版元を分けて出させたことも考えられる。ともあれ、初代豊国の文化年代の美人画中で注目される作品である。  
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彫・前田謙太郎      摺・入江義光
作品サイズ 36.3x24.6㎝
価格 39,960円(税込)
 

  遺珠刊行会「秘蔵 浮世絵美人画撰」

栄水    玉屋内志津賀(額入り)
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題名のよみは、「たまやうち しづか」。玉屋抱えの遊女志津賀を描いた作品である。この美人大首絵は、同じ版元丸屋文右衛門から出した「鶴屋内陸奥」「兵庫屋内月岡」などとともに何枚かの組物シリーズを成すものと見なされる。 開きかけの十返舎一九の黄表紙を下向けにもつ白い左手先と、顔先へもたげた右袖口とを交叉させたポーズが、ふしぎな科を作り、読みさしの本を伏せて、誰かと対話する瞬時のスナップの動感をいかにもたくみに伝える。この絵師の描き癖である、美人の両眼の位置の不均衡さが、かえって上述の動感をさらに助長させて、何かコケティッシュな官能美も伝えて来る。この感触は栄水独特の雰囲気である。衣裳のデザインは、上着や襦袢の袖など、単純な模様ながら、目に訴える効果は至極あり、これもまた、画面の動感を助けている。画中に見える黄表紙の作者、十返舎一九がこのジャンルに初めて手掛けたのが寛政七年(1795)。そして、ここに描かれた花魁の玉屋志津賀は、静玉屋として知られる吉原遊廓内江戸町二丁目の玉屋庄兵衛の抱えで、寛政六年の吉原細見では、三枚目のよび出しであったのが、同八年の細見になると筆頭のよび出しに上がり、トップ級の花魁となる。この絵は恐らく、この花やかな時の彼女を描いたものだろう。ついでながら、栄水と一九は親交があったらしく思われる。亨和元年(1801)刊、一九作の洒落本『恵比良之梅』『野良玉子』『色講釈』の挿絵をこの栄水が描き、また一九を著名にした滑稽本『東海道中膝栗毛』初編の口絵に、栄水は一九の肖像を描いている。この錦絵制作の寛政末年ではようやく両人が交際をもち出した頃かもしれないが、画中に戯作とその作品名を出してやるほどの間柄には進んでいたものと見られる。
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彫・小池茂      摺・渡辺義明
作品サイズ 36.3x24.6㎝
価格 39,960円(税込)
 

  遺珠刊行会「秘蔵 浮世絵美人画撰」

英泉    浮世風俗美女競・文書き ≪恋文≫(額入り)
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以前配布の集中に収めた同題のシリーズの一枚で、題の「みめくらべ」にふさわしい色っぽい作品。じだらくに寝そべり、書きかけの文の手をとめ、筆の軸を返して、続ける文案を考えてでもいるようなまなざしの美人で、まさに江戸末期人情本の世界を具像化した感のある題材である。緋縮緬の長襦袢が、着附けの淡い草色に映えてなまめましく、受け口の下唇に光る玉虫色の京紅が妖しい蠱惑美を放射する。木枕の黒漆が目を惹き、のせた懐紙から髪油の香を発散させて官能的な雰囲気が画面全体にただよっている。英泉の体質が筆端ににじみ出ているような作品である。賛は文政期流行の清帖風黒地白抜きの詩句をあしらい、「一泓秋水浸芙蓉」(一泓ノ秋水芙蓉ヲ浸ス)とある。泓は水の深く清い貌。下の朱印に「狂詩」泓と見えるから、この種の出典でもあるか。枕頭の紙包に記した「美艶仙女香」は京橋の坂本氏が商っていた白粉でこの店はこの商品の名を戯作や錦絵の随所に入れさせ、コマーシャルにつとめているが、これもその一つである。ただ単なる宣伝と異なり、画題と有機的につながる効果をこの絵では見せている。
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彫・伊藤進      摺・入江義光
作品サイズ 36.3x24.6㎝
価格 39,960円(税込)
 

  遺珠刊行会「秘蔵 浮世絵美人画撰」

新着!
栄之    若那初衣装・大ひしや三花(額入り)
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題の若那は若菜にかけて、正月七日の若菜摘みを連想させ、新春を象徴する語感をもたせている。初衣装は吉原遊君が正月晴着姿に着飾ることを意味する。すなわち初春晴着姿の遊君を一枚一人ずつ描いた連作で、十二枚揃いかとされている。すべて坐像、バックは黄つぶし、栄之一流の艶雅な美人が品のよいポーズで登場している。 掲出大ひしや三花もいかにも栄之らしい作柄の一図。大ひしやは吉原江戸町二丁目の大ひしや久右衛門。三花は吉原細見によると、寛政五、六年の分にはこの店の筆頭に出ている遊女だが同八年の分になるとその名が見えなくなる。したがって本図は寛政六年前後の作と見られる。きくじ、きくのとあるのは禿の名である。膝にのせた箏を弾ずる三花の姿は、どこか中国画の高士弾琴図を思わせる雅致を見せ、打掛の黒が黄つぶしと照応して画面を引き緊めている。 ついでながらこのシリーズは当図のほかに、扇屋花人、若那屋しら露、静玉屋明石、岡本屋科照、兵庫屋三ッ浜、松葉屋染之助、丁字屋錦戸、竹屋歌巻、角玉屋玉菊、鶴屋篠原が知られている。
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作品サイズ 40x27㎝
価格 39,960円(税込)
 
  遺珠刊行会「名品おんな十二姿」

新着!
国貞    星の霜当世風俗・行燈(額入り)
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緋鹿子の長襦袢のまま床から抜け出し、行燈の芯を掻き立てる美女が、にわかに明るさを増した放射状の光の中に映える立姿は、何ともなやましく、又媚かしい。行燈から射す光をやわらかな拭きぼかしの技法で摺り出した効果は、室内をあわあわと明暗二界に分け、夜もふけた閨中の情緒へ鑑賞者を引き込んで行く。さし込んだ手の影が、行燈の白紙に薄墨色にうつるリアルな表現技法が、何といっても目を弾くが、屏風の端からチラリと布団の一部を見せ、その側らの塗盆上に対の夫婦茶碗をさりげなく置いて、衾中の人物を想察させるほのかな官能的描写も心憎い。 描き手の国貞は、初代歌川豊国門下の逸足。色気を湛えた張りのある美人画と、ユニークな個性描写を特色とする役者似顔絵を得意とした。その多くの美人画中、最も著名なものがこの「星の霜当世風俗」のシリーズで、各図キリッと引き締まった当世美人の風俗を描いている。制作期は文政元年頃、国貞としては文化年間の若さから脱皮して心技渾熟し、後年の典型化にまだ陥らない佳き時期の作品群である。七図程を数えるが、中でもこの行燈図が群を抜く卓出したできばえの優品。後年同構図の作品を幾つか発表しているが、いずれも本図には及ばない。 落款に五渡亭とあるのは、かれが本所五ツ目の渡し場の株をもっていた所から、これにちなんでつけた亭号。本図の美人の襟にもこの号を記しているのは、この女性がかれの馴染みで、今一方の襟にあるホトトギスと卯の花を描いて贈ってやったように想像される。そしてこの鳥と花とが、この図に季節感を呼び込んでいるようにも思われ、好ましさを一層助長させる。
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作品サイズ 40x27㎝
価格 39,960円(税込)
 
  遺珠刊行会「名品おんな十二姿」

新着!
歌麿    鳳凰・松葉楼若紫(額入り)
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渋井清博士の編著による『ウキヨ図典、歌麿』(風間書房発行)を参考にすると、本図と同一の図柄の作品で、「松葉屋代々春」と題した図と、「松風」と題した図とがあり、同じ版を用いて三種類の作品が刊行されていることがわかる。そして本図が「松風」となっている図の三枚続では、中央の図に「哥川」とあり、また右の図には、松葉楼・中川」とある。それが本図と三枚続きとなる第九回頒布予定の中央図が、「松風」となっており、また第十二回頒布予定の右の図は、「松葉楼・哥川」と記されている。このシリーズになって、前記のシリーズにあった「松葉楼・中川」の名は消え、「松風」と「哥川」の位置が逆転している。こうした三幅対形式を承継している三枚絵の場合、中央の図が左右より上位、或いは人気があったことを示すといわれている。 松葉屋で人気があり、最上位のおいらんは、寛政八年(1796)までは「染山」であったことがわかる。当然本図はそれ以後の作画といえる。作風にしても首の細さ、様式化した膝の描写などに、歌麿の様式化がみられる時期の作である。
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作品サイズ 40x27㎝
価格 39,960円(税込)
 
  遺珠刊行会「名品おんな十二姿」

新着!
英泉    今様美人競・辰巳(額入り)
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題は、「いまようみめくらべ」とよみたい。今様は当世風の意、みめは目うるわしい美人である。似た題にこの復刻シリーズに入れた同じ絵師の「浮世風俗美人競」であるが、この作品よりも、本図はやや後のものに属する。 「浮世風俗」の方が藝妓を主対象としているのに対し、この「今様」の方は、水茶屋、私娼など、取材範囲を少しくずらせている。本作の「辰巳」は、もちろん深川の遊所をさすが、描かれた女性のなり形から見ると、この語が通常代表する深川芸者ではなく、この地の私娼で、「伏玉」と呼ばれる、茶屋や寄場(見場。芸者の営業管理事務所)がなく、直接娼婦へ客を迎える土地女郎らしい。深川の裏櫓、古石場などで営んだ妓女たちである。画業の後期に入りかかった英泉のネッチリした筆の性癖は、饐えた官能美を発揮するこの種の女性の描写に甚だ適し、なやましげなまなざしやポーズ、頬にかかるほつれ毛など、鑑賞者を蠱惑の世界に引き込む。脂粉の香がただよい、女のまとう布団には、安白粉の痕もついているかのような臨場感を、この絵は妙に放射する。白い二の腕に丸味を覚えさせる英泉のデッサン力にも注目させられる。
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作品サイズ 40x27㎝
価格 39,960円(税込)
 
  遺珠刊行会「名品おんな十二姿」


●遺珠刊行会「秘蔵 浮世絵美人画撰」について
推薦のことば    日本浮世絵会理事長 文学博士 楢崎宗重

色々な偏見から、永い間卑属視されてきた浮世絵が、日本でも欧米なみに正当に評価されるようになった。いまでは五歳の童児も写楽を知っているところをみると、国民に広く常識化されていると言えよう。展覧会や研究は国際的視野で遂行され、豪華な出版から普及版まで浮世絵に関する著書もはなはだ多い。だがオリジナルの浮世絵はかず少なく、保存も困難なので、それを手にして親しく鑑賞する望みはほとんど断たれてしまった。そこで浮世絵の復刻がこれまた活発に企画出版され、それぞれ成功を収めている。

 一方購買層をみていると、縮小版やオフセット版や原色版と、オリジナルそのものの復刻版との区別のつかない人が非常に多いようである。復刻版が重大な責任出版であるのは、そこに根本的な理由がある。

 浮世絵版画は木版画であるから、木版によるのが最適の再現法にちがいない。オリジナルそっくりの復刻出版も可能なはずであり、それが理想でなければならない。ところが現状では材料や技巧などさまざまな隘路のために、愛好者の要望にこたえるのは容易ではない。だからといって、似て非なるものを刊行するのは、原作者の芸術を冒瀆することでもあり、また百年のそしりを招くことになろう。出版者のひとしく苦悶するところでもある。

 この度「遺珠刊行会」が結成され、その第一回の出版に「秘蔵浮世絵美人画撰」を企画した。著名な武井コレクションの原画から名品と目新しい図柄の絵が選ばれているし、初復刻なので、新鮮な感じを与える。なお浮世絵研究で令名高い鈴木重三・菊地貞夫両氏の懇切な解説と相まって、浮世絵美人画の真諦を味識できるのは、錦上一段の花である。製作は当代一流の彫師・摺師の協力を得て、この道一筋に生涯をかける梶川工房で、充分な校閲のもとに刊行すると言うのであるから、成果は江湖の期待にそむくはずがない。

 この事業の成功を祈るとともに、進んで蕪稿をものし愛好家各位に推薦する次第である。


<秘蔵浮世絵美人画撰>
監修:高橋誠一郎 推薦:楢崎宗重 解説:鈴木重三 解説:菊地貞夫 制作:梶川芳雄
発行:遺珠刊行会